「深川番所」(東京都江東区)
清澄白河駅から相撲部屋が点在する通りをぬけ、萬年橋を渡った隅田川沿い。「この近くに、江戸に入る最後の関所"深川番所"があったそうです」。その名前を引き継ぎ、昨夏オープンしたギャラリー「深川番所」。築40年の木造2階建て。1階のブックカフェ「そら庵」の横にある扉を開けると見上げる階段。上った先には、太い梁が目に入る。外観からは想像のつかない空間が広がる。ギャラリーの奥は、鵜殿秀悦さんと河田麻美さんの建築設計事務所になっている。
ちょうど、フリーフォームという、自由な発想で毛糸をつないでいく、ニット作家CHIKAさんによる個展が行われていた。色鮮やかな作品が梁に結んだ糸から吊り下がり、時折窓からの風を受けて糸が捩れ、作品がゆっくりとまわる。
「個展は今回で5回目。だいぶ人も集まるようになりました」。空間を生かした展示を担当するのは河田さん。回を重ねるごとにだいぶ要領を得てきたという。けれどもこの場所は、もともと事務所として使うだけの予定だった。
「この建物の1階は印刷所でした。2階は工員たちの住まいで、6畳と3畳と台所という間取りが2室ありました」。ふたりで壁や床を取り払い、解体工事を進めた。鵜殿さんは、元大工だ。
「天井を張り替えようとめくったところ、立派な松の梁が出てきた。これは絶対いいものができると確信しました」。建物以上に古いと思われる古材が適所に使われていたのだ。
改修が進むにつれ、自分たちの場だけにするのではなく、ギャラリーをつくったらどうだろうと考え始めた。「この場所を見て、古いものを壊す方向でなく、長く使う方向へ気持ちがいくようになってくれれば」という気持ちも込めて。
2ヵ月ほどで改修が完了。床は足場板として使われていた杉板。ペンキの跡も味わいだ。最初は白くかさかさした質感だったが、1階のカフェからコーヒーの出し殻をもらって床を磨いたところ、だいぶ艶が出てきた。コーヒーの油分がワックスの代わりとなり、いまでもたまに磨いている。
窓を開けると隅田川、反対はすぐ隣にある稲荷神社の瓦屋根、と趣きある借景。深川番所に立ち寄る際は、イベントの開催を確認してからどうぞ。
(2010年春号)