夏椿(東京都世田谷。縁側から靴を脱いで入る)
「こんにちは」「お邪魔します」。この店を訪れるお客さんからは、自然とこんな言葉が出る。
2両編成の東急世田谷線に揺られ、上町駅から徒歩10分の住宅街。白い暖簾が目印の一軒家が、今年5月に開店したばかりの器の店、「夏椿」だ。
ツツジやアジサイなど季節ごとに花を咲かせる庭を通り、縁側から靴を脱いで店へ入る。
「緑を眺められる庭付きの一軒家を探していて、ここを見つけました」。
店主の恵藤文さんは、以前も器を扱う店に勤めていたが、「おばあちゃんになるまで働きたいので(笑)」、自分の店を持つことを決めた。
一軒家には、生活の空気がある。
「扱うのは、作家さんの手づくりのもの。それらが生き生きとする展示をしたかったので、一軒家がいいと思いました」。水屋やちゃぶ台、古材を利用した棚などには、種々の器が並ぶ。畳に座り、皿を手に取る。壁に掛けられた道具の納まりを見る。家という日常の場で商品に触れると、使い方が想像しやすい。それが一軒家の良さ、と恵藤さんはいう。 「器は、長く使えることを一番に考えて選んでいます。だから、他のものとも合わせやすいシンプルなものが多いです」。
ほかに、バッグやボタン、籠などの雑貨も扱う。月に一度は店に並ぶ器を使った「食」のイベントを開催し、庭が会場になることもある。
「訪れる方にのんびりしていただければ......」。
縁側の前に置かれた水盤には、メダカが涼しげに泳ぐ。街なかにありながら、ゆったりとした時間がここには流れている。
(2009年秋号)