こいずみ道具店(東京都国立市)
国立市の大学通りと桜通りが交差する場所に、ポツリと控えめに入口を張り出した小さな店舗がある。この春、デザイナーの小泉誠さんが新たにオープンした「こいずみ道具店」だ。
元々、靴店だった築50年の木造二階建てをリノベーションし、さらに奥の2.5坪の土地に高さ10m程の塔のような建物を増築した。入り組んだ2つの建物によって、複雑な階層をつくり出している。店舗、事務所、倉庫、工房、ゲストルームに利用しているとか。 残念ながら、一般客が入れるのは1階の店舗のみだが、それでも2階へとつながる梯子のような階段から、秘密基地に招かれたような楽しさが伝わってくる。
そもそも10年前、小泉さんはこのすぐ近くに店舗をオープン。自身がデザインした商品を消費者へ「責任を持って伝えたい」というのが始めた理由だ。そのうち、地方のショップとのネットワークが生まれ、使い手と売り手、また使い手とつくり手(メーカー)をつなぐ中継点として機能するようになったという。それがデザイナーにとっては大きな役割になった。
「この町にもう30年も住んでいますので、もっと地域に開けた店舗を目指したい」と小泉さん。入口にさり気なく置かれたサインは、かつての靴店にあった「靴の修理台」を再利用したもの。新しい空間に古い道具や材料を取り込むことで、昔の記憶を受け継いでいくという意志が感じられる。
1階の店舗には小泉さんがデザインした日常の道具や家具が並ぶ。木工、漆器、陶磁器、金属器など、全国各地でつくられた商品がずらり。1つひとつの商品に込められたデザイナーの思いを直接聞くことのできる、貴重な場所である。(文/杉江あこ)